ぽんぽんびより

本業は写真家なのに町づくりや震災支援の仕事に巻き込まれてます。

カウボーイ&エイリアンは計算された映画―西部開拓時代を皮肉りつつもシリアスすぎない良作―

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なにか面白いB級映画でもないかと思いNetflixで『カウボーイ&エイリアン』を見た。

ダニエル・グレイグとハリソン・フォード主演という作品の説明書きを見て、

「この二人もとんでもない映画に出ちゃったなー」と半笑いしてしまった。

 

 

 

しかし実際に見てみるととてつもなく計算されたストーリーテリングに感服してしまう。

褒めるべき点はいくつもあるが、私は以下の点でこの映画を評価したいと思う。

それは、この映画が『第9地区』的なエイリアンの混入人間のエイリアンに対する反応、そしてシリアスになりすぎない娯楽映画の展開である。

 

 

『第9地区』的なエイリアンの混入

ニール・ブロムカンプ監督の映画『第9地区』は黒人と白人が対立している中に「社会的弱者のエイリアンを混ぜたらどうなるのか?」という発想から生まれている。

カウボーイ&エイリアンも同じような発想から生まれていると思う。

時は西部開拓時代。ゴールドラッシュの影響もありアメリカ大陸に移住してきた白人達はインディアンを迫害・殺害をしつつ土地を開拓し金を採掘していた。

そこにさらなる移住者であるエイリアンがやってくる。

これまで圧倒的な近代兵器によってインディアンと戦争していた白人達は圧倒的な超兵器を持ったエイリアンに逆に殺戮をされてしまう。

しかもエイリアン達はカウボーイの投げ縄のようなワイヤーで次々に白人達を捕獲する。

さらにエイリアン達の目的は金である。

今まで白人達が我が物顔で掘り尽くし、白人同士で奪っていた金を自分達より強い移住者に奪われてしまった。

自分達は絶対の侵略者だと思っていた白人達がエイリアンの登場によって弱者に成り下がり、敵対していたインディアンや市民権を剥奪されたアウトロー達と協力してエイリアンと対峙していく。

評価すべきはオリヴィア・ワイルド演じる人間の味方であるエイリアン、エラをキャラクターに入れたことである。

西部開拓時代の白人達は様々な部族のある先住者をインディアンと一括りにすることで差別し、武力で圧倒していった

もしこの映画が他の星からやってきた移住者をエイリアンという言葉で一括りにしてしまっては西部開拓時代の白人の愚行を繰り返すことになってしまう

エラというキャラクターを一人入れるだけで、差別を繰り返さなかった点は大いに評価できる点である。

 

 

人間のエイリアンに対する反応

私は映画の中の人間が見たこともないテクノロジーに触れて原始人のように驚く描写がほんとに苦手だ。

バトルフィールド・アース』で戦闘機を見た人間が「空飛ぶ槍だ」と表現するところはこっ恥ずかしいものがあるし、『BALLAD 名もなき恋のうた』でノロノロ動く車に過剰なまでに怯える戦国時代の敵兵には呆れて笑ってしまった。

人間は時代が変わろうともある程度の理解力と想像力はあるはずである。

だから過去の人間が未来のものを見た時に原始人のように「な、なんだべこれはー!」と驚くのはおかしい。

本作ではエイリアンの無人戦闘機を「悪魔」と表現する。

「悪魔」と表現するのは牧師だ。

そこに自然さを感じる。

たしかにこの時代にこの人ならそう表現するよね、という説得感がある。

さらに、エラがエイリアンについて語るシーン。

「私達は別の星からやってきたの」なんて語るシーンはありきたりだが気をつけなければ突拍子もなさすぎて、(例え真実を語っていても)語っている人物が間抜けに見えてしまう。

それを作中ではインディアンの集落の中でという神秘的な空気の漂う中で語るため極めて自然で極めて説得力がある。

初めて敵側のエイリアンが姿を表わすときも、それは何らかの力によって地上に反転した状態で放置された船の廃墟の中で遭遇する。

そんな不可思議な空間の中にエイリアンが佇む絵面は映画的に美しい。

これが酒場にエイリアンが突然やってきたら、ほんとにマヌケな絵面だ。

つまりこの映画では徹底的に不自然に映らないように計算されているのだ。

だから、観客もエイリアンの襲撃を作中の登場人物達と同じテンションで受け止めることができる。

 

 

シリアスになりすぎない娯楽映画の展開

西部開拓時代の白人をエイリアンに置き換えて皮肉交じりに描く、となればいくらでもシリアスな映画にすることができる。

だが、この映画はジャンル映画的な要素によってシリアスになりすぎない娯楽作品として仕上がっている

ダニエル・クレイグ演じるジェイクは家族をエイリアンに殺されたならず者。

旅を進める内に軍人、子ども、牧師、エイリアン、アウトロー、インディアン、犬という濃いキャラクターが増える様は1976年のクリント・イーストウッド主演の『アウトロー』に近いものがあるし、戦いを通じながら最初馬の合わなかった男同士が互いを認め合う展開はアメリカアクション映画の王道の展開である。

もうだめかと思ったところに、味方の援軍が駆けつけ形勢逆転する展開もアクション映画としては外せない展開で、今作は騎馬隊ではなくインディアンである点がさらに評価できる。

物語のラスト、ジェイクが町の皆に認められながらも次なる自分の居場所を探して去っていくシーンは数々の西部劇やその他の映画で見られるラストシーンではないだろうか。

 

 

 

カウボーイ&エイリアンといういかにもなタイトルに騙され、「どうせしょーもないB級映画でしょ」とタカをくくってはいけない。

この映画はきちんと映画の王道と歴史の反省の上に成り立っている良作である。

 

 

 

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