ゾンビ・アルカトラズ―酷いけどダニー・トレホとイーサン・サプリーのファンは見てもいい映画―
Netflixで『ゾンビ・アルカトラズ』という映画を見てみた。
酷い映画だった(笑)。
アルバトロスムービーになにかを求めてはいけないが、酷い。
ただし、酷い映画の中では面白い部類に入る。
だけど、酷い。
冒頭から妊婦を乗せた車がカーチェイスをするのだが、妊婦を乗っけてるのにそんなに飛ばしてええのんかいと突っ込まざるを得ない。
車は案の定スピードの出しすぎ、というか運転手が調子にノリすぎて横転。
その横転のシーンがチープなCGを使っているのでどう見てもコメディ映画のワンシーンにしか見えない。
場面は変わってアルカトラズ。
刑務所の機能をフルに使って防衛しているのだけど。
いや、あのね、アルカトラズはかつて刑務所だけだっただけで、今はただの観光地だからね?と突っ込まざるをえない。
そんなアルカトラズもあっさりゾンビに襲撃されてしまう。
それは映画が開始して8分の出来事。三宅隆太監督が話していた1幕から2幕へのベストな移行タイミングを見事に無視した切り替えだ。
登場人物達にも全然感情移入ができない。
ビデオで「ワクチン作りました。効果もあります」と公言しているまだ会ったこともない博士に希望を託す女科学者。
なんじゃそりゃ!!?
君はyoutuberに憧れる女子中学生かね?
この女科学者、『ディープ・ブルー』のスーザン並みに最後食われるのかと思いきや全然そんなことはない。
このどう見ても自己中な女の行動は映画の最後まで正当化されるのである。
劇中ところどころに町を空撮した映像が入る。
おそらくライブラリー映像だと思うのだが、無編集で使っているから酷いのなんの。
ヘリコプターの機影が入ったまま使用しているので、てっきり救助隊でも来たのかと思った。
ビル群を空撮した映像も普通に車がびゅんびゅん走っている。
これ、ゾンビによって荒廃した世界が舞台だよね??
ゾンビ映画で忘れてはならないのがグロシーン。
残念なことにこの映画ではグロシーンを有効活用できていない。
グロシーンが入ったとたん物語がそこでストップしてしまうのだ。
特に酷かったのが赤ん坊の下り。
妊婦の腹を裂いて取り出して、さらに感染した赤ん坊を殺すって...。
監督、あんたはこのシーンで観客に何を伝えたかったの。
この映画のグロシーンは単なる酷いシーンである。
この映画、ただ単に酷いだけなのかというとそんなことはない。
見どころはちゃんとある。
それは、ダニー・トレホとイーサン・サプリーが出演していることである。
ダニー・トレホは言わずもがな。
私が好きなトレホは『デスペラード』で十字架のナイフを投げるトレホである。
イーサン・サプリーは『エボリューション』等に出演しているが、私が忘れられないのは小学生の時に夢中になって見ていた『ボーイ・ミーツ・ワールド』のフランキーである。
作中での二人の活躍はほんとに素晴らしい。
ある意味、この二人が出演しているから最後まで見られたと思う。
特に制作陣はダニー・トレホの扱い方をよくわかっている。
どう控えめに見てもトレホが拳銃を撃ったときだけ命中したゾンビがふっとんでいるし、作中最もまともなことを言っているのはトレホ演じるカスピアンである。
実はトレホは映画が始まって30分くらいのところであっさりゾンビ化してしまう。
もうすごくあっさりしてて、観客としてはびっくりしたり悔しがる暇すらないほどだ。
ゾンビ化したトレホは信頼していた仲間によって葬られるわけだが、その殺され方が実に素晴らしい。
トレホゾンビだからそれくらいじゃ死なないよね、という制作陣の気配りが感じられる。
しかし、この映画あと少し頑張ればいい映画になったと思う。
なんせ、人間がなぜ(作中の)ウイルスに感染したらゾンビ化するのかをきちんと考察しているのである。
その点では『ワールド・ウォーZ』より丁寧と言えるのではないか。
本作ではゾンビ化する原因はどうやら微生物らしい。
微生物は人間に感染すると、体を動かす主導権を奪い筋肉を自在に動かす。
だからこそ、「もしかしたら感染者には意識が残っているのかもしれない」という疑問が生まれる。
さらに、微生物同士はなんらかの方法を使って互いに情報伝達をしている。
ここだけ聞けば、『遊星からの物体X』を彷彿とさせるではないか。
微生物という群に注目したのだから、群vs個人という構図で徹底的に人間を皮肉るのかと思った。
作中の人間サイドは一切統率がとれておらず、皆自分勝手な行動をとっていたから、その構図できちんと描けばいい映画になったと思うのだが、やはりアルバトロス。私達を裏切らない。